日韓の文系論文を読む人

読んだそばから忘れるので……

韓国に渡った日本の小説はどんな作品なのか/日本小説の韓国語翻訳現況と特性

目次

 

小説を通じた日韓交流

韓国文学が注目され、新しく韓国の小説を読み始めた方も多いのではないでしょうか。
これと同様に、韓国でも多くの日本文学が翻訳されて読まれています。日本で有名な作品は韓国でも有名であり、翻訳される作品のジャンルも様々です。

 

今回は、韓国語に翻訳された日本の小説はどんなものがあって、韓国の人々はどのように受け取ったのかについて調査した論文を紹介します。

 

共有する論文:イ・ハンジョン「日本小説の韓国語翻訳現況と特性―2006年以降を中心に」

 

韓国文学のライバルとして

この論文は、2006年以後から2010年までの韓国で翻訳されて出版された日本の小説の現状を見たあと、これについた大衆メディアの反応から韓国語翻訳された日本小説がどのように受け入れられていき、韓国でどんな意味をや果たして来たのかについて考察しました。

 

先行研究では、2005年までの分析があります。この先行研究を参考にしながら、2010年の視点で韓国内で翻訳された日本の小説の特性とそれらの文学翻訳の役割関係を調べることが、この研究の目的です。

 

2006年から2010年までの日本の小説の翻訳出版は、増加傾向にありました。


多くの日本の現代小説は、日本で発行された直後にリアルタイムで韓国語翻訳されています。日本で有名な文学賞受賞作の大部分は翻訳されており、東野圭吾村上春樹が、韓国で多く、継続的に読まれています。

 

2006年以降では、平家物語などの日本の主要古典文学が次々と翻訳、出版されました。その他には、これまで韓国で紹介されてなかった近代文学作家、泉鏡花の主要作品が初めて翻訳されて紹介されたのもこの時期でした。

 

リアルタイムで翻訳されている現代文学作品の中でも注目すべき部分は、ライトノベル作品です。


韓国内で日本のライトノベルを翻訳し、出版する代表的な出版社は、4社あります。この4社が翻訳出版したライトノベルは、2000年から20007年の間に翻訳された日本の小説作品数全体の半分に達しました。この現状に対して、当時の韓国のマスコミは、「空襲警報!ライトノベルが押し寄せてきた(공습 경보! 라이트노벨이 이몰려온다)」という刺激的タイトルで韓国文学の危機を示しました。

 

当時の大衆メディアの記述を見ていくと、日本の小説の受容に世代差があることが分かります。政治、経済、社会問題に関心がない若者が日本小説を読むと言われています。
他には、日本の小説のジャンルが多様であることにも注目されていることがうかがえました。このジャンルの多様性は、韓国の小説ではまだ扱われていない素材でもあるため、韓国の小説にとって日本の小説は刺激になり、日本小説の翻訳出版のブームの中で変化を模索した時代になりました。

 

論文の筆者は、2006年以降の日本小説の翻訳出版の流行と韓国文学との関連から以下のように考察しました。

 

日本小説の翻訳ブームは、「文化従属」ではないことを示唆する。翻訳は、相互関係性の中で一方的な受容や文化浸食に留まらない。2006年以後、日本の小説の翻訳は、大量攻勢の様子を帯びながら、韓国小説の「自己変貌」再築する作用もしている。 *1

 

日本文学にとっての韓国文学?

韓国の大学の図書館に行くと、日本文学の存在感を感じます。図書館の分類法によると、日本文学は独立した項目で存在し、韓国文学の次の順番になります。


私の通っている韓国の大学の図書館では、近代文学が翻訳本、原書ともに目に入るだけでなく、村上春樹の翻訳本もしっかりあります。日本の図書館では、韓国文学は豊富な蔵書が無く、探さないと見つけるのが大変だったと思います。図書館をなんとなく歩いているだけで、韓国にとって日本の小説は重要な存在であることがうかがえます。
これと同時に、互いの文学に対する認識が大きく違うことも分かります。

 

日本文学が刺激を与えた韓国文学は、次は日本の人々の日本文学に無かった刺激を与えるとして、話題になっているのは興味深いと思います。これによって、今後、日本側で韓国文学のステータスが変わるのか気になります。


韓国でも日本でもこのような相互関係によって、活性化していくといいなと思います。

 

参照論文

イ・ハンジョン「日本小説の韓国語翻訳現況と特性―2006年以降を中心に」『日本語文学』51号、日本語文学会、2010年、pp.329-350

이한정「일본소설의 한국어 번역 현황과 특성 - 2006년 이후를 중심으로 -」
일본어문학, vol., no.51, 일본어문학회,2010년, pp. 329-350

www.kci.go.kr

 

2022年1月12日note記事を修正、再投稿.

*1:p.349