日韓の文系論文を読む人

読んだそばから忘れるので……

「さっき」「後で」を韓国語でどう表現すればいいのか /韓国語学習者のための時間語の語彙情報研究結果

 

国語学習の最初の難関、時制

新しい言語の勉強を進めていくと、実は初級ですぐに習う表現の方が上級レベルで習う表現より使いこなすのが難しいと感じることはありませんか。特に、時間に関する単語のような目に見えないことを表現するものの場合、慣れるまでに多くの練習を費やす必要があります。

 

今回は、似ているために間違えやすい韓国語の時間や順序に関する単語を、どうしたら分かりやすく覚えられるのか研究した論文を共有します。

 

共有する論文:キム・ヨンジュ「韓国語学習者のための時間語の語彙情報研究結果ー얼마 전에’, ‘아까’, ‘이따(가)’, ‘나중에’を中心に」

 

より正確に理解できるように教えるには

この論文は、韓国語学習者のために時間に関する語彙である、「얼마 전에」「아까」 「이따(가)」「나중에」の意味を調べ、それを基に各表現の提示方法を論じることが目的です。

 

筆者は、韓国語教育における語彙教育の問題点として2つを挙げています。

 

①韓国語教育において、語彙教育の重要性を認識しているが、それらの研究は実際の教育現場で適切に適用できないでいる。

②いつも学習者の母国語と、1対1でその単語が訳せるとは限らない*1

 

たとえば、「아까」 「이따(가)」の意味の主な違いは以下の通りです。

 

아까=主に、過去の時制と一緒に使われる副詞
이따(가)=未来の時制と一緒に使われる副詞  *2

 

一見すると、比較的簡単に理解できそうに見えますが、実際に学習者が書いた文章を見ると、아까を過去を表現するときに使われる単語、이따(가)を単純に時点的に未来を表現する時に使われる単語だと認識していることがうかがえます。

 

この問題を解決するために、論文では韓国語学習者に時間を表す副詞、아까と이따(가)を効果的に提示するための法案を模索していきます。

 

国語学における先行研究では、以下の観点で進められていることが分かります

 

①얼마 전에、아까、이따(가)については、発話時を基準とした、時点を表す副詞として

②나중에については、発話時を基準にした、時点、或いは、事件発生時を基準とした順序を表す副詞として  *3

 

この論文でも上記と同様の観点で、韓国語教育で扱う部分を中心に論じています。論文の筆者は、얼마 전에、아까の意味比較と이따(가)、나중에の意味比較を行いました。その後、韓国語教材で各単語の提示における現状とその方向について分析しました。

 

分析するために、ソウル大、コリョ大、イファ女子大、ヨンセ大の4つから、英語圏の学習者を対象にした韓国語初級教材を選定しました。


分析の結果、教材の中で各単語に対応する英語表現を提示して、単語の意味に慣れるようにしていることが分かりました。反面、各単語の使用域や具体的な意味を十分に区切って提示されていないため、学習者が断片的意味のみを理解して次の段階に進んでしまう問題点が明らかになりました。

 

論文では全ての分析を通し、以下のことが各単語の情報として明らかになりました。

 

①얼마 전에、아까、이따(가)、나중에は全部、発話時を基準に過去、或いは未来を表す時間語

②나중에の場合、事件時を基準に時間を表現する機能をする

③나중에は、이따(가)に比べて遠い未来を表したり、語用的に断る時に頻繁に使用される表現

④얼마 전에と나중에は、이따(가)と아까に比べて口語よりも文語で多く使われる  *4

 

論文の筆者は、この研究を効率的な語彙教育のための基礎になる作業だと見ています。このような基礎情報の測定が持続的に行われたとしたら、学習者へよりはっきりと、適切な例文の提示が可能になるだろうと主張します。

 

各単語の使われ方に注目する

韓国語に限らず、外国語を勉強していると、違う単語なのに同じ日本語訳が提示されて混乱することがあります。こういう時は、多くの例文を見て、使い方を覚えるのが早く正確に使いこなせるようになります。

 

今回、論文で扱われた4つの単語の中で特徴的なのは、나중에だと思います。特に、나중에は遠い不確かな未来を表すため、やんわりと断る時によく使われます。反対に、이따(가)は近い未来を表すため、実現する可能性が高く積極性があるように感じます。

 

単純に未来と過去を表す語彙ですが、それぞれ聞いた印象が異なると思います。単語学習は膨大な量を覚えなくちゃいけないため、ひとつひとつの単語がどのように使われているのか、意味が似ている単語との違いは何なのか、じっくり観察する時間を作るのが難しいと思います。


でも、断片的な意味だけで次のレベル段階に進んでしまうと、覚えなおすのが大変になります。このような負担を少しでも軽くして学習の効率化を手伝うのが、教材と教師の役割で、教える側を手伝うために、その具体的な方法を模索することを研究が担う役割なんだと思います。

 

参考論文

キム・ヨンジュ「韓国語学習者のための時間語の語彙情報研究結果ー얼마 전에’, ‘아까’, ‘이따(가)’, ‘나중에’を中心に」『韓民族文化研究』62巻、韓民族文化学会、2018年、pp.173-201

김연주 「한국어 학습자를 위한 시간어의 어휘 정보 연구 -‘얼마 전에’, ‘아까’, ‘이따(가)’, ‘나중에’를 중심으로-」 『한민족문화연구』62권、 한민족문화학회 、2018년 、pp.173-201

 

kiss.kstudy.com

2021年12月31日note記事を修正、再投稿.

*1:p.174

*2:p.175

*3: p.177

*4:pp.195-196