語学教育において外来語と新語の動向に注目するべき理由
意味は分かるけどあまり使わない表現
最近、K-ポップをはじめとする韓流によって、アイドルや俳優が韓国語を直訳した日本語を耳にする機会が増えました。「たくさん愛してください(많이 사랑해주세요)」のような、日本語らしい表現ではないものの、何度か聞いているうちに違和感が薄れてきたりしませんか?
このように文化交流が進むにつれて、日常生活ではあまり使わないが、文化交流が進むにつれて外国語として学んでいる学習者も覚えるべき表現が登場したことについて考えた論文を共有します。
共有する論文:キム・シア、ソン・ジヒョン「中国語の中の日本文化と韓国の中国語教育」
文化交流によって定着した外来語
この論文では、東アジアの文化交流と中国と日本の相互関係の中で現れた言語が出会った結果、現代の中国人の言語生活の間で次第に増えている日本語由来の外来語と日本語式表現、日本語の語彙の事例を探し、それらの語源と由来を分析していきます。
例えば、中国語の挨拶のひとつに「初次見面」という表現があります。これは、日本語で「初めまして」に当たる表現ですが、実際は、中国人が日常的に使う表現ではありません。
しかしながら、「初次見面」という表現は、韓国の中国語教材に登場し、中国語学習者たちは自然に覚える表現でもあります。
この他にも注目すべき事例として、韓国のセンター試験の出題例があります。2018年の韓国のセンター試験、中国語科目では、会話文に合うセリフを選択する問題で「我開吃了」が登場しました。
この表現は、食事の前の挨拶として、日本のドラマや映画によく登場する表現ですが、中国人は日常的に使わない表現でもあります。このように、中国語教育の現場においても、変化していく中国の新しい言語習慣に関心をもつ必要があります。
このような背景から、論文の筆者は、日本語の影響で新しくできた中国語の新語や表現方法も中国語教育に積極的に反映すべきだとしています。
しかしながら、映画やドラマに登場する表現を、そのままマネしながら覚えるのではなく、正確な語源と背景も同時に覚えていかなければなりません。中国語に浸透した日本語と日本文化を新語と流行語を通して、変化する中国社会を理解しながら、面白い表現を覚えると同時に、正しい中国語表現と、日本語から由来する表現を区別して使える力を育てるべきです。
論文では、これらの考察を以下のようにまとめました。
教科書に絶対出てくるけど日常的に使われない表現について
外国語を勉強する時に最初に触れる教材は、その言語の普遍的な基礎になる部分を扱うため、実際に使うかどうかよりも知っておくべき内容を扱うことも多いです。初級の序盤に登場する「どういたしまして」のような挨拶も、実際のネイティブは「ありがとうございます」と言われたら「どういたしまして」と同じ意味の違う表現を使うことが多いと思います。
もちろん様々な表現を覚えることも大事ですが、使わないからといって覚えなくてもいいということはありません。自分が使わなくても、文学などの作品鑑賞しようとしたら初めて聞く表現はたくさん登場するでしょう。友人と楽しく会話するだけなら、自分が使わない表現は後回しにしても問題ないと思います。でも、その友人のことを深く知ろうと思ったら、やはり言語に現れている文化面も学ぶ必要があります。
たしかに、中国人は日本人のような「いただきます」を言わないかもしれませんが、恐らく「いただきます」を意味する「我開吃了」は知っていると思います。勉強するレベルが上がっていくにつれて、このような表現をどのように嚙み砕いて覚えていくかが重要になってくるだろうし、その時に改めて、自分がその外国語を学ぶ目的を見直すきっかけになると思います。
参考論文
キム・シア、ソン・ジヒョン「中国語の中の日本文化と韓国の中国語教育」『アジア研究』第23巻第4号、韓国アジア学会、2020年、pp.187-217
김시아、송지현「중국어 속의 일본문화와 우리의 중국어 교육」『아시아연구 』23(4)、한국아시아학회 、2020년、pp.187-217
2021年12月30日note記事を修正、再投稿.