結婚で韓国に移住した外国人が堂々と生きていけるようにするために語学教材が果たすべきこと./結婚移民者のための韓国語教材の主人公‘スーザン’の役割分析研究
目次
なんのために韓国語を勉強するのか?
多くの韓国語学習者は、旅行や芸能人などをきっかけに韓国語を習い始め、覚えた韓国語を使ってやりたいことがあるかと思います。韓国語教材には、学習者それぞれの学習目的に特化した教材があり、その学習者が必要とする韓国語を集中して教える講座が開講されています。
今回は、韓国人との結婚で、韓国生活を始めた学習者を対象にした教材の登場人物について分析した論文を紹介します。
共有する論文:キム・ジュヒ「結婚移民者のための韓国語教材の主人公‘スーザン’の役割分析研究」
伝統的性役割を果たそうとするキャラクター
この研究は、結婚移住者向けの教材の主人公、スーザンの役割が社会的性格に合うのかを分析して、教材の問題点を見つけ改善案を提示することが目的です。論文では、『결혼이민자와 함께하는 한국어』の1巻から4巻まで登場する主人公とその会話の参加者を中心に主人公の役割を分析しました。
分析対象の教材は、結婚をきっかけに韓国に住むことになった外国人が韓国語と韓国文化を学び、韓国の生活に適応し韓国社会の一員として円滑なコミュニケーションをすることを目標にしています。特に、学習者が子どもの教育と社会人生活を失敗しないようにすることを重点に構成されているといわれています。
一般に、学習者は、教材に登場する人物と自分を比べながら似ているところを見つけて、その登場人物をロールモデルに韓国語でコミュニケーションをして韓国文化を習っていきます。教材の主人公、スーザンは結婚という制度を通して韓国に定着しながら、様々な役割を担います。
ここでいう「役割」は、「韓国の文化に適合した」とされる一連の価値観を学習していく過程で身につける態度や行動などを合わせたものです。
スーザンは韓国に来ることで、妻でありながら主婦で母で嫁で、など多様な役割に合わせて生活していきながら、韓国語の自然なコミュニケーションを提示します。しかしながら、教材の中のスーザンの家庭内での振る舞いを分析していくと、彼女に与えられた伝統的家族主義の環境に自分を合わせている受け身的な人物として描かれていることが明らかになりました。
論文の筆者は、女性結婚移民者がまず必要な役割は、独立的な主体として堂々と韓国で生きていくための力を育てるべきだと主張します。特に、スーザンのような女性結婚移民者へ帰属関係からの役割を見せる時、低いアイデンティティ意識などが形成されないように、伝統的家族主義から現代に合う役割モデルを提示する必要があります。
このような問題点から、女性結婚移民者たちが、韓国社会から押し付けられる役割で差別されないための韓国語教育をするために、論文の筆者は次のことを提案しました。
韓国語教材は、教材が設定した人物関係を通じて教材が追求する目標に向かって一緒に成長する過程が描かれるべきです。そのためには、教材の筆者は、登場人物の背景について細かい部分まで考慮しなければなりません。このようにして、結婚移民者が韓国生活で、精神面でも社会的にも成長できるように手助けすることが求められます。
外国語を使いこなすために最初はマネすることから始まる
韓国の伝統的家族主義の中では、多くの果たすべき役割を求められます。
しかしながらそれらは不平等で、苦しみながらやるべきことではないという認識が韓国人の間でも広がっています。伝統的な家族の姿も韓国文化のひとつとして理解する必要はあるかもしれませんが、韓国語学習者が従うべきものではありません。
分析結果で明らかになった受動的なスーザンの姿は、伝統的家族主義の中の理想の女性像として描かれたのでしょう。学習者は主人公のスーザンのセリフを通じて、韓国生活で必要な韓国語や韓国人との人間関係の築き方を学びます。
そうすれば学習者は自然とスーザンの言動を真似ることから始まり、文字に書かれていない価値観を当然のものとして受け取っても不思議ではないはずです。
韓国語教材を分析する時、文章や文法などに注目しがちですが、学習者の立場から教材を見ると、教材に登場するどんなキャラクターなのか、どんな状況の会話なのかがまず注目するポイントになると思います。キャラクターと状況を参考に、「こう思った時はこう言うんだ」「こういう時はこう言えばいいんだ」というように覚えていくからです。
このように、学習者はその韓国語の最初の人格を作っていき、いろんな経験をしながら自分に合った韓国語表現に調整していきます。最初の人格はキャラクターの真似から入るため、実際に本人が認識している人格とかけ離れていることもあります。よく韓国語や韓国に馴染んだようでも、実はお手本の韓国語に喋らされているだけじゃないかと悩むことは誰でも起こり得ることです。
でも、言語は道具であって自分を表現するためのものです。
だから、学習者が自分の個性に合った言葉を探せるように手助けする教材の必要性が一層高まっているのではないでしょうか。
参照論文
キム・ジュヒ「結婚移民者のための韓国語教材の主人公‘スーザン’の役割分析研究」『リテラシー研究』第10巻第5号、韓国リテラシー学会、2019年、pp.401-427
김주희 「결혼이민자를 위한 한국어 교재의 주인공 ‘수잔’의 역할 분석 연구」『리터러시연구』제10권 제5호, 한국리터러시학회, 2019년, pp.401 - 427
論文で分析対象になった教材↓
*1:pp.422-423