日韓の文系論文を読む人

読んだそばから忘れるので……

韓国語教材は韓国人の外国人に対した偏見が反映されている/韓国語教材の潜在的教育過程の分析

目次

 

世界中で韓国語学習熱が高まった今だからこそ

外国語を学ぶとき、その言語で書かれた文章の主題や内容理解を通して少しずつ言葉を覚えていきます。そのため、例えば、韓国語で書かれた文章や会話文だとしても、教材を実際に使うのは様々な背景を持った外国人たちです。


「男は主導権を持つべき」「日本人はおとなしい」などの固定概念や先入観が、たとえ韓国では当たり前の感覚だったとしても、それを学習者に暗に伝えてしまっていないだろうか?或いは特定の学習者の差別する表現になっていないだろうか?


今回は、韓国語教材をこのような多様性や政治的正しさの面から分析した論文を紹介します。

 

共有する論文:パク・ジスン、ユン・ギョンウォン「韓国語教材の潜在的教育過程の分析-ジェンダー、国籍、年齢に対した認識を中心に-」

 

改善されない無意識的な表現

この研究では、韓国語教材を分析し潜在的の伝えられている社会規範がどんな風にどのように現れるのかを検討しました。先行研究では、特に以下の潜在的な社会規範に注意しなければならないとしています。

 

  • 性差別(sexism)

  • 年齢差別(ageism)

  • 社会階層に対した偏見(social orientation)

  • 価値偏向(values)

 

論文では、この項目を参考にジェンダーに対した認識年齢に対した認識の2つの側面と国籍に対した認識も加えて調査しました。

 

調査対象にした韓国語教材は、以下の韓国語教育現場で広く使われている、大学機関の主要教材の3冊です。

 

  1. ソウル大

  2. ヨンセ大

  3. イファ女子大

 

韓国語レベルは1級の教材が選定されました。その理由は、多くの学習者が本格的に韓国語に接する最初の段階であり、この時の韓国語教育に対した第一印象が強く残る可能性が大きい段階でもあるからです。

 

分析した結果、次のことが明らかになりました。

 

①分析したすべての教材に製作陣の相当数が女性で構成されているにもかかわらず、
伝統的な性役割の固定概念が強く反映されている。

②性別のほかにも、教材の登場人物の職業や行動などで表現されるイメージを通して無意識に反映された国籍別偏向性、時代別固定概念が現れた。 *1

 

今回の分析で使用された教材は、比較的最近に作られた物でしたが、上のような結果によって、多様性や政治的正しさが反映されているのか疑問が残りました。また、これらの問題点は過去の研究においてもずっと提起されてきた問題点です。実際に改善されないまま、行き詰っている現状が明らかになりました。

 

論文の筆者は、韓国語と韓国文化の世界的影響が大きくなった今、韓国語教育の責任感は重く、今が韓国語教育がどんな貢献をするべきなのか振り返る時ではないかと述べています。また、国語学習者が今回の分析結果で現れた現象を批判的に見られるようにするための具体的な方法論等を今後の課題としました。

 

教材の文章を読むのは誰?

私は語学堂で2級から始めたので、1級の教材で勉強したことがありませんが、多様性の観点から見たら他の級の教材でも同様のことが言えると思います。特に、恋愛や家族などテーマによっては文化ごとに常識が異なるため、偏見に対して敏感になるべきです。

 

しかし、『ソウル大韓国語』を1年間使って勉強した印象としては、男性は会社、女性は家庭の傾向やアフリカ系の登場人物が他の登場人物の属性より極端に少なく感じました。


他には、「ハングルやセジョン大王は素晴らしい!」「韓国人の情に感動する外国人」といった韓国語学習者へ読ませる文章として適当か、疑問を感じることもありました。

 

現場で教える講師は、こういった教材の偏見的な表現のまま学習者に教えず、多様な学習者に配慮をしているものの、講師の個人的力量に任されているのが現状のようです。教材は頻繫に更新するのが大変で、学習者使う時には掲載されている情報や写真に古さを感じることもあります。


長く使われる教材だからこそ、今後は多様な学習者中心で製作されることが期待されます。

 

参照論文

パク・ジスン、ユン・ギョンウォン「韓国語教材の潜在的教育過程の分析-ジェンダー、国籍、年齢に対した認識を中心に-」『韓民族文化研究』71巻0号、韓民族文化学会、2020年、pp.311-349

박지순, 윤경원 「한국어 교재의 잠재적 교육과정 분석 -젠더, 국적, 연령에 대한 인식을 중심으로-」『 한민족문화연구』71권0호, 한민족문화학회, 2020년, pp.311-349

 

www.kci.go.kr

2022年2月8日のnote記事を修正、再投稿.

 

*1:p.342