原作キャラ設定の何%が翻訳マンガに反映されているか?/日本漫画作品の韓国語対訳本に見られる役割語翻訳の実態
目次
日本のマンガのセリフが翻訳される時の問題点
マンガでは、詳しい自己紹介が無くても、どんな話し方をするかでそのキャラクターがどんな人物なのかをだいたい知ることができます。このようなストーリー上の立ち位置やキャラクターの性格を表現する役割語に関する問題のひとつとして、翻訳する際にこれらの表現を翻訳者が改作することによって、原作のキャラクターから大きく変わってしまうのではないかという点です。
今回は、日本のマンガの中のキャラクターの性格や立ち位置を表現するセリフが、どのように韓国語に翻訳されているのかを調査した論文を紹介します。
共有する論文:田村友里絵 「日本漫画作品の韓国語対訳本に見られる役割語翻訳の実態」
人物のイメージを表現する語彙の違い
この研究は、日本のマンガの原作と韓国語翻訳版を比較して、原作の登場人物のセリフに現れる役割語が韓国語にどのように翻訳されているのかを実態調査を通して、その調査結果から考察しました。また、この調査はポップカルチャー作品の翻訳の質の向上と日本語学習者が流暢に日本語を駆使できる能力を得ることへ役立つことが期待されます。
調査の対象になったマンガ作品は次の5作品です。
「名探偵コナン」と「犬夜叉」は、先行研究でも扱われた作品です。先行研究では、セリフの文末に注目して調査が実施されましたが、今回はセリフ全体に対象を広げて調査が行われました。
「ツバサ」は、「犬夜叉」と同じ翻訳者が担当しました。作品ごとだけでなく翻訳者ごとに特徴があると仮定し、「犬夜叉」の比較として「ツバサ」が選定されました。
「ワンピース」は、多くの個性的なキャラクターが登場するため様々な役割語が見られると予想されます。
「大奥」は、江戸時代が舞台になっているため他の作品と異なり、昔風の言葉遣いがどのように翻訳されているのか見ていきます。
調査の結果、全体の割合では原作の役割語のうち、28%が翻訳に反映され、72%が反映されていないことが分かりました。この数字から、翻訳の過程で役割語が消えてしまう傾向が強いといえるでしょう。
先行研究では、時代を表す昔風の言葉遣いは現代風に翻訳される傾向があると指摘されていますが、今回の調査では原作の38%が反映されている結果になりました。
この研究で以下のことが明らかになりました。
当初、仮定していた翻訳者ごとの違いについては比較材料が不足したため結論が出せませんでした。論文の筆者は、この点についてと今後はマンガに限らず、広くポップカルチャー全般的に役割語の翻訳の実態を調査することを課題としました。
読みやすさと忠実さのバランス
日本語と韓国語は文化が異なるので、全てを翻訳に反映させることは難しいでしょう。セリフの翻訳で優先されるべきことは、そのキャラクターが何を言っているかを伝えることです。
論文の中でも言及されていましたが、たとえ対応する表現や語彙があったとしても、広く読者に共有されていなければ翻訳として適切ではありません。日本語でも、専門家じゃないと分からないような専門用語だらけの文章は読みにくいのと同様です。
しかしながら、日本のマンガの場合、キャラクターの喋り方が作品の世界観を作っていることも多く、印象を損ねないようにする工夫が求められます。分かりやすく自然な表現と原作の表現意図に忠実な表現とのバランスを考えて翻訳した結果が、今回の論文の調査結果に現れたのでしょう。
参照論文
田村友里絵 「日本漫画作品の韓国語対訳本に見られる役割語翻訳の実態」『日本語学研究』第43集、韓国日本語学会、2015年、pp. 21 - 38
2022年2月4日note記事を修正し、再投稿.
*1:pp.35-36