日韓の文系論文を読む人

読んだそばから忘れるので……

日本人韓国語学習者の敬語のクセ /日本語圏学習者のための韓国語敬語法教育研究

 

社会人必須スキル

韓国語も日本語も複雑な敬語があることで有名ですが、どのように違うのを理解して正しく使うこととは、学習者にとっても至難の業です。そうでなくても、ネイティブの間でも敬語をどのくらい重要視するのかは分かれるところがあるかと思います。

 

今回は、韓国語を勉強している学習者が、韓国語の敬語を話すときに母語である日本語の影響がどのように表れるのかに注目して、日本語と異なる使い方をされる韓国語の敬語をどのように伝えるべきか考えた論文を共有します。

共有する論文:ナカガワ マサオミ「日本語圏学習者のための韓国語敬語法教育研究―中級段階の会話領域を中心に―」

 

敬語を使わなくちゃいけない基準

論文の筆者は、韓国語を外国語として習う学習者にとって難しい学習項目のひとつに敬語を挙げています。その理由に、敬語は外国人にとって、文法性と社会的妥当性に関した判断が難しいからです。

 

この論文では、日常生活で韓国語の敬語を本格的に使う段階の中級学習者に焦点を置いて、日本語ネイティブの学習者の発話に見られる、敬語のミスの原因を明らかにしていきます。また合わせて、ミスの原因分析結果をもとに、現行の韓国語教育の問題を指摘して、中級学習者のスピーキング領域で扱うべき、教授ー学習の原理を最後に提示しました。

 

韓国語の敬語は、社会的習慣や体面、社会的必要性にしたがって、言葉を変えていく特性を持ち、韓国社会や文化が反映された文法体系といえます。敬語は、韓国語ネイティブとの会話において重要な役割をするだけでなく、公式的な場での討論や研究発表などでも用いられるため、使用範囲は相当広いことが分かります。

 

社会言語学の研究では、韓国語の敬語は上下関係を重要視する反面、日本語の敬語では親疎関係を重要視するといわれています。

 

日本語話者の学習者の敬語ミスを調査した結果、客体を上げる語彙のミスが最も多く、全体の47%を占めました。


また、その他に見られたミスは、以下の通りです。

 

単語のミス……28%
動詞、形容詞の「하시다」表現に関するミス……14%  *1

 

また、日本語話者の学習者が共通しておかすミスとその原因は以下の通りです。

 

①話し手と聞き手の両者の間の会話で、上下関係より親疎関係を重要視する日本語の影響を受けたミス
→韓国語では、上下関係が敬語を使う時の決定的要因になるという特性を正確に理解できていないから。

②話題に上がった人物が目上の人になる場合、その人物に対して尊敬語を使わないミス(例:선생님한테 선물 뭘 줄까?)
→日本語の敬語のルール影響によるもの。

③韓国語の敬語の規則を無視したまま、尊称助詞の後ろに来る体現を尊敬語の表現に変えないミス(例:김선생님 박선생님을 모시고 왔습니다)    *2

 

次は、このようなミスを防ぐために、韓国語教材がどうあるべきかを考えていきます。

 

まず、現行の教材の問題点として、2つの問題を挙げることができます。

 

ひとつめは、敬語のルールに関した説明について、ふたつめは、会話文に現れる敬語表現についてです。ひとつめの問題については、学習者が日本語話者であれば日本語を、あるいは英語をはじめとした、学習者がすでによく知っている言語を通して説明を補充する必要があると考えられます。また、助詞と体言の呼応関係は、韓国語の敬語の特性なので、学習者が理解しやすい説明と練習問題が必要だと考えられます。

 

ふたつめの問題については、段階的にかつ、繰り返して学習できるようにするべきだと考えられます。

 

これらの調査をもとに、韓国語の敬語に関した教授ー学習の原理として、論文の筆者は以下の3点を提言しています。

 

➀学習者が実際に使用する場面を考慮すべき
→教師は、学習者が韓国の日常生活で接する韓国語ネイティブのコミュニケーションを把握して、その代表的な状況を内容に盛り込む

②学習者の水準に合わせた段階的指導をするべき
→中級段階の初めから徐々に提示して、学習者が進級する時までに十分な練習ができるようにする

③敬語の使用過程を考慮した教授ー学習方法を考案するべき
→敬語の社会的側面について、統合的教授ー学習方になるようにしなければならない。また、リスニング(理解)からスピーキング(表現)へ移行する効果的なものにしなければならない。  *3

 

最後に論文の筆者は、公的な状況も含めた様々な状況での分析を行う必要があったとし、またその分析結果をもとに具体的な教授ー学習の内容と提示し、その効果を検証していくことが今後の課題だとしました。

 

日常生活で敬語はどのくらい重要なのか?

正直、日本語ネイティブでも敬語を正しく使うことは難しく、文法的には変な表現にもかかわらず、当たり前に使われている表現は多くあります。それは韓国でも同様で、特に若い世代ほど両親に対して敬語をあまり使わなくなっているという話もあります。


ネイティブでもこのような状況であるため、外国人が敬語を使うように求められることはあまりありません。無理して不自然な表現になるくらいなら、失礼のない標準的な表現を使うことの方が重要だと考えられているのでしょう。

 

しかし、社会人として韓国人から信頼を得ようとしたらやはり敬語は必要になると思います。また、自分が使わなくても、客としていろんなお店に出入りすれば、相手は当然のように敬語表現で話しかけてきます。この時に、標準的でストレートな表現しか知らなかったら、相手の言いたいことが理解できずにコミュニケーションに問題が起きるかもしれません。

 

実際に、日本語に引きずられたミスをする人が多いという結果は、敬語の必要性は理解しているものの、韓国語の敬語が何なのかがいまいち分かっていないということだと思います。だから、学習目的によっては韓国の社会事情や文化教育も含めて、敬語の使い方を学べる授業が必要なのかもしれません。

 

参考論文

ナカガワ マサオミ「日本語圏学習者のための韓国語敬語法教育研究―中級段階の会話領域を中心に―」『韓国語教育』18巻1号、国際韓国語教育学会、2007年、pp.101-130

나카가와마사오미 「일본어권 학습자를 위한 한국어 경어법 교육 연구 -중급단계의 말하기 영역을 중심으로-」『한국어 교육』18권1호,국제한국어교육학회,2007년,pp.101-130

kiss.kstudy.com

 

2021年12月24日note記事を修正、再投稿.

*1: pp.10-11

*2:pp.16-17、p.6

*3:  pp.21-23