日韓の文系論文を読む人

読んだそばから忘れるので……

韓国語の新語を通じて学べること /新造語を活用した韓国語単語形象法教育の内容研究

 

教科書に無い単語をいつ覚えるのか

毎年のように流行語が話題になったり、若者言葉のように、あるコミュニティで発生した言葉が広まってはいつの間にか消えていくことがありますよね。外国語を学ぶときも、より高いレベルを目指したり現地の人のように会話をしようと思うと、このような辞書に無い単語を覚える必要にぶつかります。

 

しかしながら、語学学校や教材では、普遍的かつ必要最低限の単語しか取り扱いません。しかしながら、現実にネイティブが作っていく新しい単語は、その言語の一定の法則性に則っていて、かつ、その単語がもつ文化的背景を見ることができます。

 

今回は、教育現場でも積極的に新語を学習者に教えることの意義について書いた論文を共有します。

 

共有する論文:キム・ボヒョン『新造語を活用した韓国語単語形象法教育の内容研究』

 

新語単語の構造

この論文の目的は、中・上級以上の韓国語学習者のための語彙教育としてで、新語を活用することの効果について検討することです。新語に対する韓国語学習者の関心は高いです。なぜなら、新語を学ぶことのメリットは主に2つあるからです。

  • 口語での意思疎通能力とメディアの読解力を伸ばす
  • 様々な文化様相が見られる

 

しかしながら、教育現場では、新語が語彙教育の対象として認められていない現状があります。


論文では、学習者が多様な新語に触れられるように、新語を語彙教育の範囲に含めることで、韓国語の単語の形作られ方に慣れるための教育資料として活用することを示していきます。

 

韓国語の単語の形作られ方は、大きく分けて3つです。

 

①単一語
単一語が作られる方法は、以下の4つが見られます。

1.拡張
もともとある単語の意味以外の新しい意味で使われる場合。
: 고구마(サツマイモ)=もどかしい、 꿀(ハチミツ)=気楽で良いことを通称する言葉、관광(観光)=競技やケンカで圧倒的な差で勝つこと

2.借用
新しい事物や概念を表す言葉を外国語のまま用いられる場合。主に英語が元になることが多いが、一部日本語の場合もある。
:욜로=YOLO(You only live once)、인스타그래마블=instagramable、오타쿠=オタク

3.代置

意味や発音が似ている記号や数字に置き換えられる場合。また、文字の形が似ている文字に置き換える場合も含む。
例:댕댕이=멍멍이(ワンワン)、 0720 =ㅇㄱㄹㅇ →이거레알(これリアル)、 덕후=오타쿠(オタク)

4.非音節

速く簡単に入力できるよう、効率性のために作られる場合。
例:ㅇㅈ=인정(認証、認める)、ㅇㅋ=오키(OK)、ㄱ ㅅ=감사(感謝)

 

②合成語
合成語が作られる方法は、以下の4つが見られます。

1.一般合成
既存の単語を活用して、新しい単語を作られる場合。最近は、英単語を合成することが多い。츤데레(ツンデレ)のみ、日本語の単語で合成された唯一の新語。
例:도시농부(都市+農夫)、호캉스(ホテル+バカンス)、페이스펙(フェイス+スペック)

2.混種

異なる種類の単語が結びついて新しい単語が作られる場合。主に、韓国語と外来語が結合することが多い。
例:스세권(スターバックス+駅近)、헬조선(Hell+朝鮮)、프로참석러(プロ+参席+-er)

3.縮約

各単語の最初の音節を集めて新しい単語が作られる場合。
例:만반잘부=만나서 반가워 잘 부탁해(どうも、よろしく)、 아아=아이스 아메리카노(アイスアメリカーノ)

4.反復合成

名詞の語幹を繰り返して新しい単語が作られる場合。
例:여자여자(女子), 애기애기(赤ちゃん)

 

③派生語
既存の接辞詞や接尾詞によって、新しい単語が作られる場合。

1.接辞詞
【개(犬)-】 개공감(激しく共感), 개노잼(激しく面白くない),개망(激しく詰む)
【탈(脱)-】 탈강남(江南脱出), 탈조선(韓国脱出) 탈덕(オタ卒)
2.接尾詞
【-족(族)】혼밥족(お一人様)、감성 캠핑족(映えるキャンプをする人たち)、직구족(個人輸入する、海外の現地のネットショップで購入する人たち)
【-질】오덕질(オタ活)、현질(オンラインゲームのアイテムを現金購入すること)
【-이즘(-ism)】귀차니즘(めんどくさがり)、투덜리즘(積極的に乗り出して行動しない)

 

語彙教育に活用するために、それぞれの作られ方の代表単語を選んでいき、資料を作成します。この際の選定基準は以下の通りです。

  • 単語の形成方法がよく現れている構造を持っている。
  • 一定以上の使用頻度が見られ、その単語が広く使われていると判断できる。
  • 頻度推移において、連続して使われたりずっと増加する様子が見られ、これから定着する可能性が高いと判断できる。

 

論文では、結論として以下のように主張します。

 

韓国語の語彙を習得するため、学習者は実際の語彙に触れて、分析及び理解する過程が必要なのだが、この時、必要な知識が単語の形成法であり、活用可能な良い支援が新造語だと考える。現代韓国語で、広く使用されている新造語の形成体系と規則を提示する教育的試みは、学習者の意思疎通能力を向上するだけでなく、実際の韓国人の言語生活を教育現場に積極的に反映することとして価値があるのだ。*1

 

新語は、より学習者の身近な単語として手助けになる

教科書や語学講師が教える通りに勉強すれば、最短で最低限、無礼の無いような会話ができるようになります。しかしながら、実際のリアルな言語に触れ続けていると、必ず教わったことから逸脱した表現に出会い混乱するかと思います。習ったことは、あくまでざっくりと理解できるようになれるようにするためのもので、圧倒的に分からないことだらけなのが現実です。

 

新しく作られる単語は、ネイティブの言語感覚を見ることができるだけでなく、言葉の規則性を学ぶことができます。たとえば、接尾詞の-질は、教科書でも登場するメジャーな表現です。でも、私が当時習った時は紹介された単語を丸暗記するだけで、よく分かっていませんでした。教科書に載らない덕질や현질は、도둑질のような単語より自分が使ったり実際に聞いたりしやすい単語のため、より意味、規則をイメージしやすいと感じます。

 

新語は、効率よく単語を覚えるための豊富な見本として、また丸暗記だけで面白くなくなりがちな単語暗記を娯楽に変えてくれる興味深い単語だと思います。

 

 

参考論文

キム・ボヒョン『新造語を活用した韓国語単語形象法教育の内容研究』2020年
김보현 『신조어를 활용한 한국어 단어 형성법 교육 내용 연구』 2020년

kiss.kstudy.com

2021年7月16日 note記事を修正、再投稿.

*1:p.385