日韓の文系論文を読む人

読んだそばから忘れるので……

妖怪ウォッチと異なる戦略をとった韓国怪談アニメ/アニメ<神秘アパート:ゴーストボールの秘密>の構成的特徴と伝統的怪談のコンテンツ化の意味

 

懐かしの肝試し大会

子どもの頃、夏休みに怪談話をしてたことがありますか。子どもの頃の怪談話と言えば、学校や近所での事件の話が中心だったと思います。児童向けコンテンツでも必ずといっていいほど、妖怪や幽霊、トイレの花子さんのような噂話をもとにした話があります。有名なシリーズだと、「学校の怪談」や「怪談レストラン」がアニメ放映されてました。この2つは、韓国でも吹き替えで放送された有名なアニメです。しかしながら、最近になって、初めての韓国製作の怪談アニメが登場し、韓国で大ヒットしました。

 

今回は、このアニメの特徴と果たした役割について考察した論文を共有します。

 

共有する論文:ソン・ソラ『アニメ<神秘アパート:ゴーストボールの秘密>の構成的特徴と伝統的怪談のコンテンツ化の意味』

 

 

 

韓国初の怪談アニメ


韓国最大のアニメ専門チャンネルが製作した児童向けの怪談アニメ『神秘アパート』は、過去に放送された日本製作の怪談アニメと以下の相違点および特徴が見られます。

 

①韓国で、子どもを対象に製作した最初の鬼神を素材に扱ったホラーアニメ
②驚くべき興行成績を見せ、多様な領域でコンテンツの拡散を行なった
③日本で製作し吹き替えたホラーアニメ作品とは、内容の本質的志向で違いが見られる *1

 

近代に「児童」の概念が誕生したことにより、「童話」の概念も出現しました。児童を対象とした童話は、創作や口伝えによる説話の脚色を通して、教訓性を強調することが目的です。この論文の目的は、神秘アパートを対象に怪談物語をシリーズ構成する方式を綿密に調べ、その意味と描写の意味とコンテンツとしての価値を押さえることです。

 

物語の特徴として、主に3つが挙げられます。

  1. 多様な社会的問題を含めた日常の恐怖としてのお化け
  2. コミュニケーションと理解を通した鬼の恨みを晴らす
  3. 協力してくれる存在としてのお化け、および恐怖の消却

 

従来の童話における鬼は、子どもたちに教訓と肝試しとしての道具として用いられていました。しかしながら、神秘アパートにおいてお化けは、仲良くするための道具として発想の転換が見られました。また、エクソシストのような、多様な国の文化を登場させることで、鬼を活用した物語の想像力を自由にさせるきっかけにもなりました。

 

神秘アパートが商業的成功を修めた背景に、鬼そのものをキャラクター化させ、親しみあるイメージを作ったことにあります。そのイメージを活用し、ぬり絵やフィギュアなど多様な商品展開が行われました。神秘アパートの商品展開は、鬼を恐怖の対象ではなく、遊びと娯楽の対象として再誕生させたと考えられます。

 

ちなみに、日本製作アニメで近い作品に「妖怪ウォッチ」があります。妖怪ウォッチの特徴として以下4点が挙げられます。

 

①子どもたちが理解しやすいストーリー
②キャラクターの名前に込められたオマージュやパロディ
③1人ずつ仲間を集めるストーリー展開
④妖怪の属性要素をキャラクター化した戦略 *2

 

神秘アパートの場合、物語の見せ方や鬼自体を娯楽の対象にすることで成功した点が、妖怪ウォッチと異なるといえます。

 

論文の筆者は、結論として以下のように述べます。

 

<神秘アパート>シリーズは、‘鬼神’を産業的コンテンツで成功させることに寄与した。子どもたちのための教育用道具は、もちろん、玩具等にも積極的に使用され、娯楽と遊戯を対象に鬼神を含めた基盤を用意することで鬼神文化が大衆的に拡散されることに一定の役割を果たしたのである。*3

 

子供向けアニメの成功


国内製作にすることで、韓国由来の怪談を中心に扱われている点が、神秘アパートの最大の特徴です。既存の登場人物を現代キャラクターとして、新たに作り直して商品展開する手法は、日本では定番です。

 

しかしながら、多様な文化圏のお化けを韓国的解釈で展開されていくところに、韓国製作の意義があると思います。当然、韓国の子どもたちを対象に製作されるため、登場人物も韓国人であり、マンションの部屋の中や学校の様子も韓国の日常が描かれています。

 

さらに、小学生くらいを対象にしているため、ストーリーの内容が教訓的、道徳的に感じます。韓国の成功したアニメと言えば、ポロロなど、子ども向けのアニメが強いように感じますが、日本アニメと比べて、教育志向が強いです。


日本アニメは、少子化の影響も受けて、子ども向けよりは、大人を対象とした、或いは、大人も見ることを想定したアニメ製作やマーケティング戦略を積極的に行います。韓国も同様に、少子化問題が深刻になっています。ターゲット層が少ないため、産業的成功は難しいように思えますが、それでも、子ども向けアニメが強いということは、韓国では、親が教育熱心?なのでしょうか?日本の青年向けアニメが多く輸入されていたとしても、依然として、アニメは子どもが見るものという前提が強いのでしょうか?

 

参照論文

ソン・ソラ『アニメ<神秘アパート:ゴーストボールの秘密>の構成的特徴と伝統的怪談のコンテンツ化の意味』韓国古典文学教育学会、2018年
송소라 『애니메니션 <산비아파트:고스트볼의 비밀>의 구성적 특징과 전통귀신담의 콘텐츠화의 의미』 2018년

 

www.kci.go.kr

2021年7月12日note記事を修正、再投稿.

*1:p.140

*2:p.164

*3:p.174