日韓の文系論文を読む人

読んだそばから忘れるので……

爆発的ヒットをした「妖怪ウォッチ」は何が新しかったのか/メディア変革期におけるメディアミックスの新展開

 

日本流キャラクター展開法

前回、お化けを扱った児童アニメのキャラクター展開についての韓国の論文を扱いました。その中に、妖怪ウォッチのキャラクター展開について言及がありました。そのため今回は、妖怪ウォッチのキャラクター展開について書かれた論文を日本の論文を共有しようと思います。

 

共有する論文:野口光一『メディア変革期におけるメディアミックスの新展開』

 

アニメが火付け役になったゲーム主導のメディアミックス

トランスメディアストーリーテリングが中心のアメリカに対し、日本はキャラクター中心のメディアミックスを中心に行っているという指摘があります。この分析を踏襲しつつ、メディアの種類や消費の多様化を進んだ現在において、日本のメディアミックスの新しい姿を「妖怪ウォッチ」を検証していくことが、この論文の目的です。

 

筆者は、妖怪ウォッチがアップデートしたことを以下のように整理しました。

 

ハード面:
・視聴方法と新たインターアクションのスタイルが多様化した中でも、メディアの展開を加速させた。
QRコードの利用など環境変化を活用した。

ソフトウェア面:
・小さな物語/エピソードの集合体の制作を目指し、さらにバラエティ番組の要素を付加した。
・その「世界/場」の構築と、そこに生息していた小さな物語を展開する個性的なキャラクターの創出を重視していた。
・妖怪メダルのような、アナログとデジタル、現実世界と仮想空間を横断・往来するモノによって、メディア間のコミュニケーションを成立させた。

市場面:
子どもから大人までの大規模消費者を対象とし、各メディアの産物をそれぞれオリジナルとして市場供給することで、消費活動の継続を図り、ICTの時代ならではの文化消費財を生産した。*1

 

妖怪ウォッチは、作品自体がまだ認知されていない時期から「ジバニャン」を他のどのキャラクターよりも前面に大きく配置して見せるなど、集中的に市場に供給を行いました。ジバニャンをスター化、ブランド化を図りながら「妖怪ウォッチ=ジバニャン」という認知と露出戦略と同時に、キャラクターの「本物感」が追及されました。

 

妖怪ウォッチと同様に、ゲーム主導のメディアミックスを行なったシリーズに「ポケットモンスター」があります。この2シリーズは、子どもだけでなく、大規模な消費者をターゲットに設定した点で、共通しています。妖怪ウォッチポケットモンスターを比較した場合、以下の違いがあると言えます。

 

➀クリエイターとビジネスを担当する会社が、ポケットモンスターは異なるのに対し、妖怪ウォッチは、レベルファイブ1社で行っている。

②ゲームの発売からアニメ放送までが、ポケットモンスターより妖怪ウォッチの方が短い期間で展開された。

ポケットモンスターは、第1作目のゲームが最も売れたのに対し、妖怪ウォッチは、アニメ放送後に発売された第2作目のゲームが最も売れた。

 

近年のように、メディアが多様化していく中でのメディアミックスでは、1つの会社で複数のメディアを連携させて展開することが難しくなり、また複数社が作品に関わると、各社の調整が必要となり、それぞれのメディア展開に遅れができてしまいます。しかしながら、妖怪ウォッチはの場合は、レベルファイブ社長の日野が直接、コンテンツを全体的の管理する役割を担い、リーダーシップを発揮しながら、クリエイター部分とビジネス部分を切り離すことなく、推進することに成功しました。

 

レベルファイブが製作したものに「イナズマイレブン」があります。このシリーズは、6年続きましたが、ストーリーが進むごとにマンネリ化してしまったことが課題として残りました。そこで、妖怪ウォッチでは、テレビアニメの構成をバラエティ番組化させることで、家族で楽しめることを目標にしました。日常の小さなエピソードを個性的なキャラクターが展開する方法は、以前は行わなかった新しい方法でした。

 

結果として、妖怪ウォッチは子供向けにもかかわらず、大人たちも巻き込んだ大規模な消費者を獲得することに成功しました。このことについて、筆者は以下のように将来の可能性を述べます。

 

成熟し、飽和状態にあるように見えた2000年以降のコンテンツ産業であるが、プラットフォームの変化やARなどの新たな技術革新によるメディアの発達がさらなるメディアミックスの進化をもたらすことが期待できよう。*2

 

誰もが参加しやすい構成やキャラクター要素

全体的に肯定的な見通しで議論が進み、妖怪ウォッチを成功例として分析した論文でした。作品自体は、キャラクター中心の構成とコンセプトの統一にこだわったことが明らかになりました。妖怪ウォッチは、妖怪のキャラクターの個性が面白かった作品だと思います。その個性をアニメが宣伝することに成功し、他のメディアへ波及することができたと思います。また、大人にも親しみやすい日常ネタやキャッチで真似しやすい「妖怪体操第一」もその要因になったと思います。

 

妖怪ウォッチは、日本的なネタが多いにも関わらず、流行当時、海外からも注目を受けていて、「妖怪体操第一」や「ゲラゲラポーのうた」を踊る動画を見たことがあります。キャラクター中心にすることで、妖怪の元ネタは何か等の内容を深く知らなくても、参加しやすい点が強みだったと思います。キャラクター自体は素材になるので、公式も消費者個人も、個性を付け加えやすい点も作品を盛り上げる要素になったのではないでしょうか。

 

参照論文

野口光一「メディア変革期における「メディアミックス」の新展開 ―『妖怪ウォッチ』を事例に―」『アニメーション研究』19(1)、日本アニメーション学会、2017年

cir.nii.ac.jp

2021年7月25日note記事を修正、再投稿.

*1:p.40

*2:p.40